こっそり買ってきたもの

3月、また今年クルトは思ってなかったバーレーン、マナマへ到着。前回に比べると町が静かに思える。楽しむには時期が悪い。

イスラム社会には『ラマダン』という時期が存在する。太陽が昇っている間は何も口にすることができない。報道陣の中で、たばこを吸っている姿を見とがめられた人もいるくらいだ。人までつばを飲むことすら、ちょっとドキドキしてしまう期間なのだ。

2008年9月、ワールドカップ最終予選のバーレーン戦がちょうどそのラマダンの時期に重なった。3月のワールドカップ第3次予選のときを想像してやってきたものの、様子がまるで違う。パスポートコントロールを抜け、免税店でしっかりビールを12本買ってロビーに出るとずいぶん静かだ。白タクのお兄ちゃんも心なしかかけてくる声に元気がない。それじゃ客は奪えないって。

空港には、前回の教訓を生かしてホテルの車に迎えに来てもらっていた。同乗者はイギリス英語を話す若い白人が2人。プラカードを持っていた運転手が「こっちに車を置いているから」と駐車場に向かって歩き出す。相変わらず朝9時で気温は40度近かった。しばらく歩くと白人の一人が怒り出した。
「どうしてここまで車を持ってこないんだ。そうすりゃ歩かなくて済むんだぞ」
「じゃあ持ってくるよ」
運転手はぼんやりした口調で言うと、一人で歩き出した。
「まったくアイツらはいつもそうなんだ。気が利かないんだよ。この国はそんなところだから気をつけたほうがいいぞ」
白人はプンプンしながら、親切なアドバイスをくれた。でも、こちらももうすっかり暑さにやられて
「ああ、ありがとう」
と一言返すのが精一杯。日本人もぼんやりしている民族だと思われただろうなぁ。

ともあれホテルに何とか到着。さっそくチェックインして部屋に入ると、今回はツインの広々とした角部屋が割り当てられた。窓はいつもながら砂まみれだし、前回同様エアコンの音はずっとガンガン響いていて落ち着かないけど、スペースに余裕があるぶん前回よりも気が楽だ。さっそくフロントに連絡してバスタブの栓を持ってきてもらう。

でも、今回はどうやらウエルカム・フルーツバスケットはないようだ。昼も近くなって腹も減ってきた。前回と同じく徒歩5分のところにあるショッピングセンターと個人商店のようなスーパーに行ってみることにする。

ショッピングセンターはがらんとしていた。もちろんダチョウのハンバーガーショップも閉まっている。コーヒーショップにも誰もいない。オープンしているのは携帯ショップだけだけど、店員も座り込んでいるし、歩いているお客もいない。そう言えば、歩いてくる途中に見た通りの店もみんな閉まっていた。

慌ててスーパーに行ってみる。よかった。明かりは点いていないけど人の気配がする。無事に営業しているようだ。

いつもどおりアラビアパンとオレンジと大きな水のボトルとペットボトルを一つ、おつまみに缶詰を少々。
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買い物をしている最中に、現地の人が何かを買いにやってきた。食品のようだ。やっぱり人目を避けたところで食べているのだろう。
会計を済ませて外に出ようとしたら、もう一人の買い物客に呼び止められた。
「いいかい、その袋を道で広げちゃいけないよ。自分の部屋に入るまでしっかり袋の口をひねって絞っておくんだぞ」
すごく真剣な表情だ。黙って頷いておく。

その男性は小さな食べ物を買って、自分の服の中に隠すと店の外に出た。しまった、軽装できたしバッグも持ってない。しかも食べ物を入れてくれたのは半透明のポリ袋で中身はバレバレだし、大きな水のボトルはそのまま手で提げている。ダッシュでホテルを目指そう、と思ったけどあまりの暑さに5歩で断念した。

幸い、というか当然というか、人通りも少なかった。なんとかホテルにたどり着く。これで3、4食分は確保できた。

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ホテルの横は相変わらず荒涼とした風景だった。ゴールポストもあるんだけど、誰もいない。水も飲めないのに40度以上ある中でボールを蹴る人はいない。

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