禁酒時代の酒場のようなラマダンの時の食堂
ホテルでは1階のレストランも奥のバーも、まるで人気がないことだ。レストランには、3月の時は置いてあった食器の影すらない。思ったよりもラマダンは厳格なようだ。どうすればいいのかホテルのフロントに聞いてみた。
「どこかで食事ができる?」
「ルームサービスだね。ルームサービスなら飲み物もあるよ」
飲み物とは当然アルコールだ。
「レストランは?」
「18時過ぎさ。18時にならないと食事できないんだよ」
このホテルのルームサービスはドバイのホテルほど高くはなかった。だけど節約しようと思ったら、どうしてもルームサービスは使いたくない。スーパーで買ってきたアラビアパンに缶詰で我慢するしかなさそうだ。
ラマダンで困るのは気軽に外へ気晴らしに行けないことだ。もともと昼の時間帯は店が閉まっている。ウインドウショッピングをしようにも水を持ち歩けない。ホテルのプールも入るのがためらわれる。レストランで誰かを見つけて世間話をしようと思っても、現地の人は誰もいない。
日本代表の練習場に行ってもラマダンの影響ははっきり出ていた。練習場の入り口では大きなアラブ人がじっと報道陣を見ている。選手到着まで練習場の外で待つ間、周囲の目を気にして報道陣は誰も水を口に入れなかった。
大男の姿が消える。選手到着か、と思って入り口を見ていると、その大男がでかい水のボトルが差してあるウォーター・サーバーをもって現れた。さっきまでの仏頂面がにこにこ顔に変わっている。
「さ、18時だから水が飲めるぞ」
中からもう一人、小柄な中年の男性が出てきた。両手に小さな水のペットボトルを持っている。そして満面の笑みで報道陣に配り始めた。禁欲が一気に解かれて自然と笑みがこぼれるのだろう。
練習取材終了後、22時過ぎにホテルに戻ってみると通りは派手にライトが点いている店ばかりだ。がちゃがちゃという食器の音が聞こえてきそうなレストランばかり。大きなスーパーも人が溢れている。