FC東京vs川崎 FKに込められたドラマ
最後は武藤嘉紀がネウシーニョを巧みに外して決勝点を奪いました。87分、チームの決まり事としてはファーサイドに入るはずの武藤が、それまでとは違った動きを見せて中央に走りこみ、フリーになってヘディングシュート。川崎は反撃するものの、FC東京が2-1とリードしたまま試合は終わりました。
この試合で生まれた3ゴールはすべてFKから。そこに絡み合ったドラマがありました。
最初のゴールは21分、川崎のFKからです。川崎はFC東京ゴールに向かって左のペナルティエリア角付近からのFKを得ます。FC東京の選手は選手を一直線に並べてそれぞれのゾーンを守る、ゾーン・ディフェンスのラインを敷きました。
中村憲剛がボールを蹴ると、そこにはフリーとなった大久保嘉人が。大久保は三浦和良選手の持つJ1での通算ゴール数139を超える140点目をヘディングでマークしました。そのとき、背後から大久保に走られ付こうとしていたのが太田宏介です。
川崎は同じような位置から前半のうちにあと2回FKを得ます。1回は小林悠が、2回目は再び大久保が鋭くゴールに迫りました。いずれもゴールには至りませんでしたが、実は大久保も小林も「相手のラインが短かった」という欠点を突き、ラインが途切れる背後のスペースから飛び出していました。この弱点をFC東京は前半のうちに修正できなかったので、川崎にしてみるとこのときに追加点を奪っておけばもっと楽な試合展開になったことでしょう。
試合が大きく動いたのは64分、車屋晋太郎が2枚目のカードで退場してから。この日の車屋は前半から動きがおかしく、不安定だったためこの退場は仕方がなかったかもしれません。
それでもまだ川崎は1点リード。落ち着いてボールを回そうと大久保がゆっくりキープしてファウルを受けたり、FKを獲得したりして時間を作りますが、今の川崎は一度後手に回るとなかなか元に戻せません。
71分、今度はFC東京がゴール前でFKを獲得します。川崎は4人の壁を作り、その横にボールを流された時用に大島僚太を置きました。FC東京の選手は壁の横に選手を並べ、GK西部洋平の視野を遮ります。太田がモーションを起こしたときに、壁の横に並んでいたFC東京の選手が身をかがめました。GKとすればその上を越し、ニアサイドにボールを落としてくると思ったのでしょう。ですが、太田の狙いは並んだFC東京の選手の横からファーサイドにボールを流し込むこと。西部が左足に重心をかけた瞬間に勝負は決まっていました。
なぜ川崎は相手にFKの名手がいるとわかりながら、短い壁で勝負したのか。それは1人退場になり人数が足りていなかったからです。ところが壁に大島を加えた5人以外の4人のうち、3人はマンツーマンで相手選手をマークし、中村は壁の後ろを守って余っていました。
試合後、西部は「FKを入れられたのは自分のミス。キッカーが見えなかった。山を張るしかありませんでした。今思えばケンゴのことまでもっと考えておけばよかった」と猛省していましたが、さすがに1人減った状態でのセットプレーの守り方はトレーニングしていないでしょうから、そんな経験値が不足していたということだと思います。
最後のゴールを生んだFKは、武藤がその時間まで相手ボールをチェイスしたため生まれたものです。その意味では、武藤への「ご褒美」ゴールだったとも言えるでしょう。
川崎には課題が浮かび上がってきました。ここまでの14失点のうち、75分以降に奪われたのが5点。また前半4失点、後半10失点と後半の弱さが目に付きます。ボールを支配して相手を走らせ、華麗にゴールを決めていたのが昨シーズンなら、今季は相手が先にブロックを作り川崎がおびき出されて走らせらせ、そこから相手は川崎が守備の隊形に戻る前に素早くゴールを陥れる——。 そんな川崎攻略法を見せられている気がします。