ステラvs長野 両監督の采配の妙味と非公式の公式記録
ステラは16分、井上選手が縦パスに抜けだしGKと1対1になります。ペナルティエリアの前までGKが飛び出し、井上選手が縦に大きくドリブルした時、GKと井上選手が交錯しました。長野の本田美登里監督も思わず立ち上がったとき、主審の判定はなぜか井上選手のファウル。菅野監督が「そりゃないでしょ~!!」と怒りを露わにすると、本田監督も「私も覚悟しましたよ!」と2人でレフェリーを針の筵状態にしました。
もし男子だったら、ここで試合が荒れ気味になるでしょう。ですが、女子サッカーはそこからもう一度プレーに気持ちが向くところが特長です。
ただ、井上選手はこれで調子が狂ったのか、何度も決定機を外します。そこに菅野監督が一言。「それでいいぞ。そのままだ」。「あの発言で安心できました」と井上選手は試合後に振り返っていました。
次第にステラが主導権を握り、高い集中力を見せていた長野の中盤がバタバタし始めます。すると今度は本田監督が1人の選手に「どうした? 何か気になっていることがあるの? いつもどおりやっていいのよ」と声をかけました。これでその選手は落ち着きを取り戻し、長野の集中力は再び戻りました。
前半を終えて0-0。ステラは後半、吉見選手と長澤選手を投入しテンポを上げます。長澤選手と橋浦選手の韋駄天対決はとても楽しそうでしたが、橋浦選手が途中で足を痛め、長澤選手が左サイドでぎゅんぎゅん言わせるようになり、ステラは優位に立ちました。
ところが58分、またも井上選手が決定機を外します。「今日はもう代えられても仕方がない」と井上選手は思っていたのですが、菅野監督は「いや、アイツはちゃんと決められる選手」と信じて交代させませんでした。
菅野監督の読みは鋭かったと言えるでしょう。64分、とうとう井上選手がゴールに流し込み、ステラが先制点を挙げました。この得点で長野は一気に集中力が途切れ、65分、72分、76分とステラが加点して勝負を決めました。長野に欠けていたのは、実は現役時代の本田監督のように味方を鼓舞し、ゲームをコントロールしようとする選手だったかもしれません。
さて、サイドストーリーを2つ。
ステラでは、いつもサポーターのみなさんが凝ったことをしています(笑)。
非公式マッチデープログラムや歌詞カードの出来がすごい!! CGまで駆使!! オフィシャルで使えない表現がバンバン!!
この日は、
こんなものまで。東アジアカップに引っかけたフライヤーをサポーターが作成して配っているって、どんだけなんでしょう(笑)。
そして本当に感心したのは、
非公式の公式記録のまとめ。Jリーグではあるのですが、これは本当に便利です。ありがとうございます!!
そしてもう1つ。
キャプテンの尾山選手が復帰したため、ベンチから外れるメンバーが1人できました。この日は、「ぬく」こと西村選手がベンチを外れ、矢倉に登ってビデオ係を務めていました。
試合後、観客と選手たちが大喜びしている隣で、西村選手は涙を流していました。悲しく、そして本当に悔しかったのでしょう。男子選手は悔しいときに怒る方向で感情を爆発させるので、泣くというのは僕にとって新鮮で、かつどうやって対処していいか分からない光景でした。
ですが、サッカーそのものが競争の世界。今後、古市選手が復帰すると、今度は2人ベンチに入れない選手が出てくるのです。菅野監督はこの日、井上選手を使い続けましたが、それは情に流されたのではなく読みがあったから。感情論を考慮しすぎる監督ではありませんし、だからこそJの舞台でも戦ってこられたのだと思います。
西村選手は涙が流れなくなるまで練習し、監督に自分を認めさせるしかないでしょう。しばらく前に練習を見学したとき、西村選手はすっかり自信を失っていました。気持ちが落ちていく悪いスパイラルに入っているようでした。苦しいだろうけど、環境には恵まれているのだから、それを十分生かして自分で見つけるしかない。こうやって言葉で外から言うのは簡単なのですが。