書評(らしきもの)風間八宏著「風間塾 サッカーを進化させる『非常識』論」

風間塾 [ 風間八宏 ]
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もし風間フロンターレが念願の初優勝を飾ったら、この本は最高の指導書の一つとして地位を確立するでしょう。だけどもし勝てなかったら、この本に意味はないのでしょうか? いや、そんなことはないでしょう。自分の目ざすサッカーをこれだけ堂々と口にして、実践して、ということだけでも、僕は大いに価値があると思います。 

この「風間塾 サッカーを進化させる『非常識』論」は2011年6月から2012年4月まで配信された有料メルマガ「風間塾」をまとめた本です。現在の川崎のサッカー、あるいは風間監督の采配を思い浮かべながらこの本を読むと、執筆当時から監督が何も変わっていないのがわかります。実際、監督から練習後に話を聞いたときも、この本の内容、言葉そのままでした。

この本の第6章「チームが個を生かす」の中から。
「一つのチームが、1年間通してその『理念』を貫き通すというのは、ものすごく難しいことです。(中略)世界のトップと呼ばれるクラブも、やはりそれを貫いたクラブが、長い間その座を維持しています。しかし、そのクラブにも必ず「1年目」というものはあるのです。ですから、どのチームが1年間を通りして自分たちの『色』を出して戦うか、ここに注目してもらいたいと思います」 

確かに風間監督は就任以来、ずっと『色』を変えません。その頑固さは、2001年から2002年まで横浜FCを率いた信藤監督と共通するかもしれません。信藤監督は「2-4-4(4-4-2ではない)」を掲げ、理想を目ざして突っ走りました。勝ち味は鋭いのですが相手のカウンターに沈む展開になることも多く、結局昇格という目標を達成できませんでした(2002年は最下位)が、降格のないリーグという特徴を生かして前衛的な考え方に挑む姿は、「思っていること」=「口にすること」=「行動」がすべて一致するという、人として素晴らしい態度だったと覚えています。

風間監督も本当に同じで、監督に就任したから目の前の勝点を拾い続けようとするのではなく、ちゃんとスタイルを作り上げて、それを常に維持することで勝ち続けるチームを作ろうとしているのだと、この本を読むと確信することができます。

問題はその常勝チームを作るまでの期間がどれくらいかということでしょう。理想論はすべて相手を上回って勝つことですが、試合の時点でもし相手が自分たちを上回っていたらどうするのか。そこで現実路線に走る監督もいるでしょうが、風間監督はそんな方法論を採っていません。

川崎はこれまでずっとJ1でのタイトルを逃してきましたから、根本的に手を入れて作り直し、という考えもあると思います。 ただ、その作り直している期間に勝てなかったら、はたして方向性が間違っているのではないかという疑念がわいてきます。「いいサッカーをしているのだけれど勝てない」と言っているチームが降格した例はこれまでもたくさんありました。それにファンとしては負け試合を見るのはやはり辛いでしょう。

「勝ちながら理想のサッカーができるようにする」と「理想のサッカーに近づきながら勝てるようにしていく」 とは、「勝ち数」と「常勝チームになるまでの期間」に差があるかもしれません。その折り合いをどうつけるかというのは監督を選んだクラブの腹のくくり方一つであって、どこまでクラブが監督を守るかという姿勢になってくると思います。

本の中に書かれている「非常識」は、落ち着いて考えると何ら「非常識」ではありません。原理・原則であり、基本とも言えます。 「だけど……」と言いたくなるところを、見つめ直させてももらえます。それでも「だけど……」と言いたくなりますが(笑)。

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