天皇杯・横浜FMvs清水で見た信じる力
出版社に行ったあと、駆けつけたのは小雨の降るニッパ球。天皇杯4回戦、横浜FMvs清水です。
芝の状態が良くて、小雨でも地面が浮くこともなく、ボールが非常にスムーズに滑るピッチでした。おかげでパススピードがどんどん上がります。最初にそのスピードに慣れたのは横浜FMでした。巧みにコントロールしながら清水陣内に攻め込みます。そこで1点でも横浜FMが奪っていたら勝敗は決していたかもしれません。
前半の終わり頃から、それまでのハイペースが体力を奪ったのか、横浜FMの動きが次第に落ちます。清水もピッチに慣れて、本来のパスワークが生きるようになりました。中心となったのは藤本選手と小野選手。ときにパス供給の主役と脇役を入れ替わりながら横浜FMを崩しにかかりました。横浜FMもじっくり受けて立とうとするのですが、その前に藤本選手の先制点が決まります。
どちらも上手い選手が多いので、じらしておいてペナルティエリアに進入する。横浜FMの小野選手が小気味よく入り込もうとする姿が目立った前半でしたが、後半になると清水の藤本選手が同じような形から先制点を決めます。そして、清水の小野選手のCKから岡崎選手が決め2点目、さらに見事なパスからこれまた岡崎選手が3点目と、清水は一度つかんだ流れを離さず、そのまま試合を決めました。
本来なら、この清水のパスワークについて書きたいところですが、きっとそれは誰かが書くでしょう。だからここで書き残しておくのは西部選手のセーブです。
まだ横浜FMが逆転の匂いをぷんぷんさせていたとき、横浜FMがペナルティアークの中でFKを獲得します。当然キッカーは中村選手。ペナルティスポット付近に作られた壁は、中村選手から見ると右側を押さえました。
ゴールまで近いので、普通の選手ならドロップさせるのは難しいでしょう。だけどそこは中村選手。ちらちらと壁を見ています。ただ、壁が下手に飛んでしまうと、足下を抜かれる可能性もあります。芝がスリッピーだから低いボールも効果的でしょう。
昔、あるGKに聞いたことがあります。GKは壁を信じちゃいない。壁は抜かれるものだと思って構えている。だけど相手にはそれを感づかれちゃいけない。
中村選手が鋭く左足を一振りしました。狙ったのは壁がないほうのゴールのコーナー。コントロールされていましたがスピードもありました。西部選手は横っ飛びでシュートをはじき出しました。
試合後、西部選手に話を聞きました。
——あのコースは壁を信じていないと間に合わないところでしたね。
そうですね、すごくいいコースに飛んできたけど間に合いました。
——味方を信じられるものですか?
僕は信じますね。よかったです。
パスがつながるときもそうなんですけど、味方を信じてプレーして、それが結果に結びつくっていい瞬間ですね。あそこで信じられる西部選手の人柄に感心しました。
さて、試合後現れた長谷川監督は「勝っちゃいました」と最初に一言。
「僕たちが暗くなっていると選手にもよくないと思って、また明るい雰囲気にしてるんです」
一度バスに戻っていた伊東選手も戻ってきて「よかったよ。とりあえず12月25日まではできる」とちょっとだけ笑ってくれました。
どうなのかなぁ、このチームが大きく変わりそうだというのは。