川崎vs柏 殺伐としてしまった試合の中で
6分、大久保選手が素晴らしいプレーで先制点を生みました。中村選手からレナト選手にロブのパスが通りますが、レナト選手はきちんとマークされて一発ではゴールを目指せません。大久保選手はレナト選手が後ろにパスを出しやすい位置へと近寄ります。ところが、レナト選手がボールをキープして前を向いたのを確認すると、一気にゴール前へとダッシュ。レナト選手のシュート性の強くて速いボールがゴール前を横切ると、そこには大久保選手しかいませんでした。
ただ、このゴールで柏の集中力が欠けていたのも明らかになりました。大久保選手がレナト選手によっていったときにマークした選手は、大久保選手がスピードを上げた瞬間に振り切られてしまいます。さらに大久保選手が飛び込んでくるコースにはもう1人柏の選手がいたのですが、やすやすと侵入を許してしまいました。
その後も柏は何でも無いプレーでのミスからパスを奪われます。それでも21分、工藤選手がヘディングシュートでGK杉山選手を脅かすなど意地を見せていました。後半に入って立て直してくるか——と思われていた49分、レナト選手のカットインにDFがついていけず、ペナルティエリアで倒してしまい、これがPKとなりました。
柏が気力を振り絞ります。57分、右のクロスがペナルティエリア内で川崎の選手の手に当たりPK。これを決めて1点差にすると、ギアを上げました。ですが、巧みな川崎のリズムコントロールで決定機をつくるに至らず、逆に86分、レナト選手がミドルシュートを決て3-1。 勝負の行方は決着しました。
この試合では至る所で選手が倒れました。前半、大久保選手が脳しんとうを起こし、中村選手も谷口選手との接触で転がります。柏の選手も痛み、次第に選手は接触しては倒れ、レフェリーを見るようになりました。誰とプレーしているのか曖昧になり、ピッチ場の空気が次第に険悪になります。
そんな雰囲気で柏が1点を返した57分のこと。PKを決めたジョルジ・ワグネル選手は蹴り込んだボールをすぐにセンターサークルに運び、試合を再開しようとゴールに向かって走りました。そのとき、ボールはGK杉山選手の手の中に。
こんなときよく見るのは、ここでGKがボールをホールドし、相手選手が無理矢理奪おうとして小競り合いになる場面でしょう。ところが、杉山選手はすっとボールを手のひらに載せてジョルジ・ワグネル選手に差し出しました。すると厳しい顔をして杉山選手に走り寄っていったジョルジ・ワグネル選手の表情が一気に笑顔になりました。
これなんだよなぁ。僕が見たいのは勝負ももちろんなのですが、サッカーでありプレーなんです。お互いがイライラしていたり落ちちゃったりしていると、とてもベストのプレーを出せるとは思えません。もちろん瞬間的にはカッとくるでしょうが、その選手を平常に引き戻すのも隠れたファインプレーだと思います。
もちろん、試合後にほとんどのプレーヤーは落ちついています。ミックスゾーンに現れた選手でエキサイトしているプレーヤーはいませんでした。途中、大久保選手とやりあっていたGK菅野選手も「久しぶりです」と立ち止まり、ゆっくりと話をしていってくれました。内容は、「疲れを言い訳にしてはいけない」「選手たちでミーティングをして立て直したい」「今こそ踏ん張りどころ」。レフェリーや相手選手のことは一言も出ませんでした。こういう切り替えができて、物事を解決する方向に考えを持っていけるから、選手たちはトップリーグでプレーできているのでしょう。
この日は、大御所小山記者の隣で取材させてもらいました。
試合中の細かいデータの取り方にジャーナリストの基本を垣間見ました。今度じっくりと方法を聞かねば。