河治良幸さんの「勝負のスイッチ」

勝負のスイッチ ユーロ2012決勝スペイン代表×イタリア代表編 無敵艦隊、圧巻の90分を解き明かす (サッカー小僧新書) (単行本・ムック) / 河治良幸/著
勝負のスイッチ ユーロ2012決勝スペイン代表×イタリア代表編 無敵艦隊、圧巻の90分を解き明かす (サッカー小僧新書) (単行本・ムック) / 河治良幸/著

今年のEURO決勝、スペインvsイタリアの試合展開を細かく追い、河治流の分析を加えた一冊です。河治さんらしいディテールへのこだわりが凝縮されていますし、場面ごとにプレーヤーの次のプレーを三択から選ぶという形で考え、なぜ実際にはその中の一つが選択されたのかという解説を見るという楽しい仕掛けもあります。本を読みながら録画を見ると一層わかりやすい、というか、録画を見つつこの本を確認すれば、河治さんの意図が一番伝わりやすいでしょう。

さて、この本に思うことがいくつかあります。

まず僕はこのような名勝負の分析本が大好きです。それもあって、今まで「Jリーグ・レジェンド」というDVD付きムックのシリーズを作ってきました。河治さんのこの本も、試合のダイジェストDVDが本文に添う形で付いていればよりよかったかもしれません。ただ、映像の使用料の高さを考えるととても無理だと思います。そこが映像付きの本を出そうとするといつも引っかかってきます。解決策として図表をたくさん入れるという方法もあるでしょうが、それには頁数が膨らみすぎるという欠点もあります。

そしてこの本をもうこの時期に出したということに感服です。分析本を出すには最短のスケジュールだったことでしょう。読者からすればまだ記憶が生々しいうちに読みたいはずでしょうから、無理を承知の作業だったのだと思いますが、これは本当にお疲れ様でした。河治さんが後書きで書いていらっしゃるように、たぶんほとんどのレギュラーの仕事を断らないとできなかったはずです。

だから本を書こうと思うと、実はじわじわと影響が出てしまうのです。雑誌などより本は入金が遅れるのが普通です。となると本を書くことを決めると、一時的な収入は減ります。そしてヒット作にならない限り、昔ほど本を書いても印税は多くありません。それでも書きたいという気持ちが本になっています。そんな気持ちが込められた本だと言えるでしょう。サッカーの本はどれもヒットしてくれますように。

それから、この本に書いてある分析って、本当はいろいろな選手の証言を元に検証したかったのではないかと思うのです。 ただそれは膨大な時間とコストがかかることです。全員の証言を集めた時点で、もう読者の興味は別のところに移っているかもしれません。でもいつかはやってみたい。

いつまでもみんなの心に残っていくようなゲームが生まれ、そしてそれをいろんな人がいろいろな角度で書き、みんなで楽しめますように。

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