横浜FCvs草津 5メートルの攻防

昇格チームは決まった。もう何も得るものはない。失うものはある。今年一緒に戦ったチームメイトの数人はクラブを去る。そんな状況の中でも両チームはすばらしい戦いを見せてくれました。勝負を分けたのは「5メートルの攻防」でした。 

試合前、草津の副島監督が明かしたこの日の狙いは「ボランチホベルトとDF渡邉の間」。試合中、すっと立った姿勢のまま試合を見ている指揮官は、攻守のポイントをあいてバイタルエリアの攻防だと考えていました。 
「ホベルトがパス交換しながら前に出てくると横浜FCのリズムができる。そこを抑えながら、渡邉の前のスペースに入れていく」 

では横浜FCはどう攻めてくると考えていたのか。 
「同じように中盤で厳しいマークにくる。特にMF熊林を潰しながら、サイドも使ってくるんじゃないでしょうか」 
 巨体をほとんどじっとさせない横浜FCの岸の監督は勝負のポイントを別の次元で表現しました。 
「今日はどっちもいろんな思いが詰まった戦い。どっちがその思いを出せるかという勝負でしょう」 
その前提の上で、どこを狙うのか。 
「草津の守備ラインの裏。DFとGKの間にパスを入れていきます」 
つまり、この時点では、中盤の潰し合いを予想していた副島監督の予想は裏切られていたのです。 

はたして試合が始まると左右にFW難波を走らせ、そこにロングパスを入れた横浜FCがすぐにペースを握りました。ところが副島監督には指示を出す様子がありません。守備ラインは高く保たれたままで、そのため草津の最終ラインは横浜FCのロングフィードに対して何度も戻りながらの守備を余儀なくされていました。 

このボディブローのような横浜FCの攻撃は、草津の走力を奪うはずでした。ところが試合前の予想が外れたにしても、草津は相手の縦に早い攻撃には慣れているようでした。素早い戻りと落ちない運動量で横浜FCになかなか決定機を作らせません。結局、お互いにチャンスを2回ずつ作ったものの得点は生まれず、ハーフタイムを迎えます。

後半、状況はがらりと変わりました。

横浜FCの動きが急に鈍くなりました。走る距離が短くなり、足下へのパスが多くなって、だんだん足も止まり始めました。一方の草津は51分に菊地が決定機を迎えると、その後も前半の劣勢が嘘のように横浜FCを攻め立てます。そして84分、FKからついにゴールを割ったかと思いましたが、横浜FCのGKがライン直前でかき出し、ゴールなりませんでした。ですが88分、ミドルシュートのこぼれ球に高田が詰めてとうとう横浜FCを崩します。

結局、この試合は0-1、草津の勝利でタイムアップ。最後まで見どころの多い試合でした。

この試合のポイントは、草津がハーフタイムで劇的に変化したことでした。そのとき、副島監督がどんな策を持っていたのか。

実はこういう話はシーズン途中ではなかなか聞き出しづらいものなのです。たとえば草津にまだ横浜FCとの対戦が残っている場合など、どんな指示があったかというのを相手の監督が知れば、次の手を読まれてしまうと思う監督もいます。U-21日本代表を率いている関塚監督が川崎を率いていたときは、記者会見でそんな質問をすると「先日的な話には応えられません」とピシャリとはねつけられてしまいました。

閑話休題。この日の副島監督は非常に分かりやすく、簡潔な指示をしたことを教えてくれました。
「横浜FCの両サイドMF、寺田と高地は中央に入ってきて左右DFが攻めるスペースを作ってきました。その左右DFを草津の左右のMFがマークすると、どうしても中盤の攻防が後手に回っていました。そこで後半は左右のMFを5メートル内側に配置しました。外はDFに任せるということにして。すると横浜FCのMFは動くスペースがなくなって、そのまま足が止まってくれましたね」

——前半、読みが違って相手がロングボールを使ってきたとき、監督は何の指示も出していませんでした。
「それは、草津のようなサッカーをしようとすると、相手チームが最終ラインの後ろにロングフィードしてくるというのはよくあることなので、いつも練習のときにそのことを意識しているんです。だから横浜FCが長いパスを入れてきても自分たちだけで対応できました」

試合後、失点につながったミドルシュートの前のプレーでかわされてしまった渡邊選手が非常にショックを受けた表情で表れました。そしてこの話を聞いて、さらに傷ついていたようでした。あのとき、渡邊選手が単独でマークに行ったのだから、もっとディレイさせればよかったのではないか、あるいはその前のシーンでボランチに下がるよう指示を出してもよかったのではないか……。その場で渡邊選手は考え込んでいました。

来季のこのカード、両監督の知恵を絞った攻防と、渡邊選手の張り切りぶりが楽しみです。今年は「5メートルの攻防でしたが、来年は両チームが成熟してもっと微妙な戦いになっているかもしれません。

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