東京Vvs大分 まるでカップ戦の決勝
経営権の譲渡という荒波に揉まれて激動の一年を過ごした東京Vと、一作年の劇的なナビスコカップ優勝から、昨季の経営破綻とJ2降格へと、天国と地獄を経験している大分の対戦は、まるでカップ戦の決勝のような白熱した戦いでした。特に昇格に向けてあとの無い東京Vにとっては、この試合で勝点3を挙げることはかすかな望みをつなぐことになります。
前半、東京Vは平本選手と河野選手が積極的に仕掛けて序盤からペースを握ります。特に7分、河野選手がドリブルでペナルティエリアを横切り、放ったシュートは大分GK清水選手のこうセーブがなければ決まっていました。最初の東京Vの猛攻を凌いだ大分は17分、土岐田選手のマイナスのパスがフリーのキム・ポギョン選手にぴたりと合いますがゴールの上に外れてしまいました。
ここで試合は一度落ち着きます。両チームががっちりとかみ合い、一進一退の攻防が続きますが、ともに集中力を切らさず決定機は生まれなくなりました。そしてそのままハーフタイムを迎えます。
後半開始から試合はさらに熱を帯びました。51分、ペナルティエリアの角付近でパスを受けた大分の河原選手が見事なループシュートを決めて大分が先制します。東京Vの川勝監督はすぐ手を打ちました。59分、阿部選手に代えて高木善選手、69分、飯尾選手に代えて菊岡選手、そして77分には、DF和田選手に代えてFW井上選手を投入します。
大分の皇甫官監督も素早く反応しました。60分、チェジョンハン選手に代えて東選手、69分、姜成浩選手に代えて井上選手、そして90分、土岐田選手に代えて益山選手を入れて対応しました。とくにこの60分、途中出場した東選手が東京Vの守備ラインを混乱させます。「MFとDFのラインの間でボールを受けるように指示した(皇甫官監督)」というポジショニングの狙いがぴたりと的中し、東京Vが攻撃しようとしても危険なエリアで一人余っている状態のためにボランチが積極的に前に進出できませんでした。
東京Vは捨て身の作戦に出ます。CBの土屋選手と富澤選手をともに前線に投入し、守備ラインは2枚だけ。大分がボールを奪っても、その場の一番近い選手から次々にアプローチして取り返します。そして最後は雨のようにクロスを入れ、大分をゴール前に釘付けにしました。
ですが結局ホームチームの願いもむなしく、大分が1-0で東京Vを下しました。東京Vにはまだかすかに望みは残ったのですが、試合後、多くの選手はピッチに倒れ込み立ち上がることができませんでした。
この雰囲気の試合って何かに似ている。帰り道、ずっと考えながら車を走らせました。そしてふと思い当たったのです。この切ない、息が詰まる感じの戦いって、2003年の川崎に似ています。ずっと昇格ラインを追いかけて、毎試合全力以上の力を出し切っていた2003年。あの、気管支をいつも握られているような、呼吸困難な試合がこの日の味の素スタジアムにはありました。
きっと東京Vはこんな試合をこれからも見せてくれるでしょう。きっと来季も胸を熱くさせてくれるに違いありません。東京Vというと、川崎から東京にホームを移転したことなどから悪いイメージを持っている方もいらっしゃると思います。ですが今一度、試合をご覧になることをお進めします。涙腺が緩むような戦いがそこにはありました。