人種差別されたことについての個人的な覚書(サゲ系の話なので注意)
見ていなかった映画を消化したいと思って今まで見てました。テーマは人種差別。そんなテーマだとは思っていなかったので意外だったのですが、見終わった後、思い出したことがあったので記録しておきます。
1996年、アトランタ五輪を見に行ったときの話。オーランドという町に泊まっていました。コーヒーショップでご飯を食べようと思って、入り口で一人と言ったとき、案内してくれた人が何となくイヤな顔をしたのが分かりました。一人ってこの時間は敬遠されるのかな、と思いながら案内されたのは窓のない、ちょっと奥まった一角。明るい場所があるのに、もしかしたらグループ客がたくさん来るからこんな場所なのか、と最初は思っていました。
なかなか注文も取りに来ません。忙しいのだと思っていた自分はちょっと甘かったのかも。隣は黒人のおばあさんだけ。しばらくしたらそんなに客がいないのも分かりました。どんどんドアが開いている様子でもありません。
やっとさっき自分を案内してくれた係が来て、注文を済ませたとき、隣のおばあさんが係を呼び止めて言いました。
「このスープ持ってきたときから冷めてるよ」
その白人のウエイターはいきなり指をおばあさんのスープ突っ込み、口に持っていって言いました。
「冷めてないよ」
当然冷めてます。だって僕が入ってきたときにはおばあさんのスープはあったし、僕が入ってきたときからずいぶん時間が経っていたのですから。僕が入ってきたときからおばあさんは一口も口に運んでいませんでした。
そのとき、僕はこの席が有色人種のための席だと気付きました。僕は係のおばあさんに対する対応が許せなくて、係を呼びつけようとしました。
その僕の姿を見て、おばあさんが止めろという感じで首を振りました。それからおばあさんは黙ってスープを飲み始めました。
僕が抗議することで、旅行者の僕はきっとすっきりすることでしょう。でもおばあさんには困ったことになるのかもしれない。そのあたりにはあまりそんな大衆食堂はありませんでした。またしばらくしたら、おばあさんはこの食堂に来なければいけないでしょう。それが何となく理解できて、すごく重い空気がその場に流れました。
もう10年以上も前の話です。でも僕が生きている時代にあった話。まだ活躍している川口能活選手や伊東輝悦選手がマイアミの奇跡を起こしたときの、同じときにあった話です。
もう一度あの店に行ってみたい。誰もいない頃を見計らって。もし変わっていなかったら今度こそ何かしたい。ダーッとか(笑)。もし店がなかったら、その店が変われなかったのだと思って悲しみたい。その思いはかなわぬと分かっていても、おばあさんのことが心から離れません。そんな思い出に目を背けそうになる弱い自分のために記録しておきます。