4000年の香辛料の味

夜、町に出る。22時過ぎだというのに昼間のような明るさだ。中心地は『解放碑』、日本からの解放を記念にしている塔である。そのすぐ近くに人がたかっている場所があった。流れ作業でお金を払い、カップを手にしている。ツンという辛そうな強烈な匂いがする。担々麺だ。表面は真っ赤で麺が見えない。みんな道ばたに腰掛けて、とてもおいしそうにすすっている。中国では麺を食べるときに音を立てても許されるというのもわかった。
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5元(約80円)渡して一緒に列に並ぶ。4畳ぐらいの店内には20歳代だろうと思われる若い女性が6人いた。2人がお客にカップを渡している。その後ろで2人が麺をゆで、1人がゆでられた麺と挽肉をカップに入れてお玉を持っている調理人に渡していた。調理人の目の前には銀色のボールが9つ並び、それぞれに別の調味料が入れられている。調理人はカップを左手で持ち、お玉をボールに突っ込むと、手首の返しを使って放り込むようにカップの中に調味料を入れていく。お玉とボールが当たる、カッ、カッ、カッという音がリズミカルだ。

すぐに順番が回ってきた。カッカッカッと木の実や白い粉末や茶色い液体がカップに加えられる。あと3つ、というときに調理人が急に手を止め、僕の顔をのぞき込んだ。ちょっと考えているようだ。店内にいる他の5人も一斉にこっちをみている。

何かの態度で日本人ってわかって嫌われたのかな。昔日本が爆撃した重慶で、しかも解放碑の前なのだ。一瞬そう思ったけれど、彼女の手元をみて意味がわかった。

お玉が突っ込まれているボールには、毒々しいくらい赤みを帯びた液体が入っている。きっと辛さの元がこれだろう。彼女たちは、僕が彼女たちの辛さに耐えられるかどうか考えているのだ。

僕は思わず右手の親指と人差し指でつまむ仕草をしてアピールした。それをみていた調理人はうなずき、ゆっくりと手を動かしてほんのちょっとだけ赤い液体を加えた。

ぺらぺらの紙でできたカップを手にして店を離れる。割り箸を割ってすすろうとしたとき、視線が気になった。店の6人がじっとこっちをみているのだ。行くよ、と目で合図して口に入れる。辛い。辛い、辛い。思わず顔をしかめてしまう。
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店の中から大爆笑が聞こえた。よかった、もし見栄を張っていたら大変なことになるところだった。だが、その辛さに耐えていると、豊かな風味が口の中に広がってきた。ナッツの香りと香辛料が絶妙な味わいを作っている。麺は米が材料で、細いけれどスープとしっかり絡み合って、柔らかな歯ごたえを作り、のどをするりと通って胃を刺激する。人気店である理由がようやくわかった。

辛さが収まるのを待ってすすり、すすっては辛さに耐えた。時間はかかったけれどスープまで飲み干し、たっぷりの満足感を味わうことができた。

空になったカップを持って店の前まで行った。一人が気付いてこちらをみる。僕は誇らしげに空になったカップをひっくり返した。その僕の笑顔をみて、気付いた子が何か言う。すると店の子たちがみんなこっちを振り返り、笑いながら拍手してくれた。道行く人は何があったのだろうとこっちを見ている。この真っ赤な顔をして汗をだらだら流している、分厚いコートを着たヤツに何があったのだろうと。そして僕はちょっとしたヒーローの気分を味わってホテルに戻った。

翌日からその店の前を通るたび、店の中から誰かが見かけて何か言ってくる。僕も思わずいつも並んだ。翌日からも辛みは抑えてもらったけれど、何杯食べても決して飽きの来ない、中国料理の秘伝が詰まったような80円だった。

さて、恒例の1000円でどれくらい買えるか。今回も1000円使えませんでした。これ以上持てなくて、約800円。
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