いきなり販売拒否される
昨日、試合終了後のスタジアムは熱狂した。係員が日本人だと見ると派手なガッツポーズをする。ミックスゾーンに行く途中で会った小学生たちとはハイタッチだ。記者室の横に設けられていたケイタリングルームでは、女性がにこにこして慎重に泡を計算しながら注がれたビールを振る舞っていた。
タクシーを使って2時過ぎに帰る。いつもはほんの少しだけ明かりをつけて寝るのだけれど、この日だけは真っ暗にしてグッスリ眠った。
朝起きて、いつもより遅い朝食をとった後、街に出て新聞を探す。たばこ屋に新聞が並んでいた。英語で聞く。
「どれが一番人気がある新聞ですか?」
出てきたおばさんはいきなり
「ノー」
と言うと視線を外した。
いつもならムッと来るけれど今日は機嫌がいい。片言のドイツ語でも聞く。
「いい新聞はどれ?」
顔も見ずに
「ノー」
こりゃひどい。外国人は嫌いのようだ。
そこにおじさん登場。ドイツ語で聞いてみる。
「フースバル?」
と聞くと、おじさんはイタリアのガゼッタ・デル・スポルトを出してきた。
結局3種類の新聞を買ってホテルに引き上げた。だが、昨日の試合のことはどの新聞にもほとんど書いてない。
一つの新聞に昨日の試合のことが書いてあった。オーストリーがチリに負けたという内容のようだ。日本のことも書いてある。試合経過だけのようだ。採点もない。1万9,500人という観客数と、日本が2度目のPKを獲得したということが特筆とされていて。あとはいたって冷静な内容だ。
昨日で終わったことには、みな急速に興味を失っていた。街を行く人々も今日からのことにしか関心がなさそうだ。せっかくの美酒は長く楽しみたいものだったが、残念だ。
仕方がないので、一人でもう一度祝杯を挙げる。グラスの裏に、「500ml」というラインが引いてあって、ちゃんとそこまで液体が入っていた。こういうところは几帳面だ。