そりゃ疲れます

試合前日の公式練習。ところが日本代表のパレンバン入りも遅れ、選手は空港から直接スタジアム入りした。疲労の色が濃い。また日本代表の帰国便が決定した。だが、8月1日にJリーグの予定がある浦和と広島所属の5選手(坪井慶介、鈴木啓太、阿部勇樹、駒野友一、佐藤寿人)は試合翌日の早朝、別便で乗り継ぎを繰り返し、他の選手より11時間前に帰国する。
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ジャカルタは税関をくぐってドアを出ると左右に出口がある。そこにはハノイよりもはるかに多いタクシーの客引きが待っていた。
左が認可を受けたタクシー会社、右はタクシーを使わないか、あるいは白タク。
ジャカルタに到着した時間が深夜だったので、左の認可を受けた会社はほとんど店じまいしていた。白タクの独壇場だ。日本の、終電が終わった後の駅に集結している白タクさんより、はるかに迫力のある声かけ合戦が始まる。
「お前はこっちだよ」
「こっち、こっち」
手を引っ張るヤツもいる。しかもしつこい。
「ホテルどこ?」
「市内の◎●ホテル」
「ああ、よく知ってるよ。××ルピアでどう?」
「高いね、それじゃ乗れないよ」
「わかった、わかった。特別に半分にするよ。ほら、もう他にタクシーいないよ」

そんなとき、閉まりかけていたタクシー会社のカウンターにいた人と目があった。
「◎●ホテルまで××ルピアだって!」
大声でタクシー会社の人に話しかける。カウンターの中の人はしかめっ面をした。
「高すぎる」

白タクの客引きが怒った。タクシー会社の人物に向かって怒鳴っている。だけどタクシー会社の人物は意にも介さない。
「高い」
カウンターの人はもう一度そう言うと、目で左側の入り口を示した。そこにも何人か客引きがいるようだ。

カウンターの人がとてもいい人で良心的な人を教えてくれているのかもしれない。
カウンターの人にいくらか握らせているか、あるいは白タクを副業としている正規の運転手が左にいる可能性もある。

白タクの客引きが言うように、どんどん白タクも少なくなってきていた。右の白タクを断って左の白タクに行って、もしもそちらが高かったら、戻ってきてもまだいるだろうか。この場で安く言われても、ホテルに到着した途端ふっかけられることも考えておかなければならない。いや、それは右の白タクを選んでも同じだろう。

結局左の白タクを選ぶことにした。もしもひどくふっかけられたら、明日ここからパレンバンに出発する時にカウンターの人を見つけて文句を言えばいい。タクシー会社の方を向いて「サンキュー」とちょっと頭を下げ、左に歩き出す。カウンターの中にいた彼はわずかに微笑んだ。どんなルールがあるのかわからないが、そのまま右の白タクの客引きは大声で文句を言いながらも、近寄ってこなかった。

左サイドにいた白タクの、気の弱そうなお兄ちゃんが言ってきた金額は、右の白タクの約3分の2。右の白タクは最初にとんでもない値段をふっかけてきたことになる。信じてよかった。

外に出たら知り合いの新聞記者の人たちがたくさんいた。日本代表はやっと今到着したそうだ。日本代表が空港に到着するまでずっと空港で待っていたらしい。ちゃんと「到着した」という一文を書くために、そこにいた記者魂に感動する。もっとも、これだけアクシデントが起きたら書くこともたくさんあるだろう。この時間からたくさん書くのは、それはそれで大変なのだろうが。

そう思ったのもつかの間。満足して乗っていたら、お兄ちゃんがさかんに話しかけてくる。吐き気がして気分が悪いのだが、それでも気候のこと、食べ物のことなどの話をして市内の情報をもらう。ついでにパレンバンまでサッカーを取材に行くことを話した。するとお兄ちゃんの態度が急に変わった。売り込みがものすごい。

「×××ルピアでパレンバンまで連れて行くよ。友だちをあと3人乗せれば飛行機で行くより安いだろう。今持ってる航空券は明日早めに飛行場に行って売ればいいのさ。ジャカルタからパレンバンなら、いつも混んでるから必ず売れるよ。飛行機よりも時間がかかるけど、寝てる間に到着するから楽なはずだ」

ジャカルタからパレンバンまでの飛行機は型名を見るととても小さく、つまりたいした需要はないというのが明らかだった。ウレル可能性は低い。それにタクシーで行ったにしても、何が起きるか分からないのでゆっくりと寝る気にはならないだろう。

だけどきっぱり断ると今日のホテルまで連れて行ってもらえるかどうかも不安だ。曖昧に言葉を濁しながらホテル到着を待つ。こちらが生返事をするたびにお兄ちゃんの売り込みには力が入った。

ついにホテルに到着する。この日は朝7時にベトナムのホテルを出てタイ、マレーシアを経由し、やっと深夜0時過ぎに宿泊地にたどり着いた。最初に交渉したとおりの料金を払ってダッシュで降りる。これから先はぼったくりようがないだろう。ジャカルタのホテルはセキュリティが厳しくて、金属探知機をくぐってフロントが見えた。

後ろで誰かが騒いでいる。振り返ると白タクのお兄ちゃんだった。僕を指さしてドアマンに何か言っている。忘れ物でも届けてくれたのだろう。
「明日、パレンバンに行くとき、お前の友だちが払う分の、10パーセントはお前にこっそり渡すよ。悪くない取引だろう? これがオレの名刺だ。明日、8時はここに来て待ってるよ」

明日、もっと早い時間にここを出て、彼に見つからないようにしよう。

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