カタール在住エジプト人キャプテン
UAE戦。前半で3点を奪い試合を決めた。後半1点を返され3-1。
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中東の選手みんなから「キャプテン」と呼ばれるエジプト人の解説者。どの国のプレーヤーからも尊敬を集めていた。監督、スタッフなどみんなが挨拶に来る。彼のPCもいろんなウィルスが挨拶に来ていて大変な状態になっていた。
ついに、という交通アクシデント発生! 乗っていた車が事故に遭った。
試合当日、メディアホテルとスタジアムの間にはメディアバスが通っている。そのメディアバスが事故を起こした。乗っていた日本人は僕だけ。あとは現地記者が3人。うつらうつらしていたら、「ゴン」という衝撃を感じた。すぐにバスが停車する。スタジアム到着かと思ったのが、まだずいぶん距離がありそうだった。
バスの前には黒塗りの車が止まっている。きれいに磨いてあるし、高級車なのだろう。男が2人、すごい勢いでドアを開けて降りてきた。一人はカーキ色の開襟シャツに同系統のパンツを合わせた50代ぐらいの人物。もう一人は30代ぐらいで、紺色のシャツに麻のパンツを身に付けた、細身ですばしっこそうな人物だ。目がぎらぎらしている。
開襟シャツはバスの運転席のドアを開けるといきなり蹴り付けた。運転手は素早くよける。開襟シャツ、そのままバスに乗り込み蹴ろうとする。運転手、さっと助手席にどけた。
反対側の乗降口から麻のパンツが乗ってきた。運転手にキック。これは入った。さらにパンチを一発。当たったけれど運転手はスウェイして逃げたように見えた。運転手、やるなぁ。麻のパンツが左手を前につき出し、右手を上に上げた、香港映画の活劇のようなポーズを取ったときに、地元メディアのお兄ちゃんが割って入る。別の地元メディアのおじちゃんは僕に一生懸命に何か説明してくれるのだけど、何も分からない。
開襟シャツは自分の車を見に行った。じろじろと眺めている。遠めには何の傷もないように見えた。開襟シャツが右手を上げた。麻のパンツはそれを見て、ぶつぶつ言いながらバスを降りていった。
黒塗りの車が走り出す。バスもそのままスタジアムを目指した。セキュリティセンターで止まったとき、英語で話しかけてきた地元インターネットメディアの青年がいた。よく見ると前日知り合った人物だった。彼に聞いてみる。
「さっきの事故はもう決着したの?」
「うん、したよ」
「警察は呼ばなくていいの?」
「ああ、当事者同士の問題だからね。でももう決着したみたいだったけど」
「ベトナムでの事故処理ってこんなものなの?」
「そうだよ」
その日の夜、スタジアムから帰ろうとメディアバスの乗り場に行くと2台待っている。そのうちの片方の運転手が、大声でこっちに乗れと呼んでいる。昼間事故を起こした運転手だった。乗りたくないけど、仕方がない。少しでも安全そうな席に座って待っていると、助手席にベテランカメラマンのIさんが陣取った。バスは満員になったところで発進する。先にもう一台のバスが出発。しばらくしてこっちのバスも出発した。
今回のバスはほぼ全員日本人。運転手は昼間と同じぐらいぶっ飛ばして運転している。次第にみんなが黙っていくのが楽しくて、運転手はますます張り切った。渋滞している道に行き当たると、急に反対車線に飛び出て逆走しはじめたのだ。
前から走ってくるバイクがけたたましい警報を鳴らし続けている。その騒音の間をバスが左右によたよたしながら走っていく。一方通行のロータリーも反対回り。こっちの姿を見た車は慌ててハンドルを切っていた。赤信号でもそのままのスピードで突っ込む。
ただ一人乗っていたベトナム人記者が
「このバスはVIP扱いだから、どんな道でも行けるんだよ」
と解説していた。そう思っているのはバスの運転手とあなただけだって。日本人はみんな普通の待遇でいいから止まってほしいと思ったに違いない。
メディアホテルに到着したのは、こっちのバスのほうが先だった。勝ち誇ったかのような運転手。降りるとき、彼は満面の笑みでこっちを見て、「どうだい、オレのバスに乗ってよかっただろう、オレはハノイで一番のかっとび野郎なのさ。事故なんてへっちゃらよ」という感じで挨拶してきた。確かにもうアナタのことは忘れません。顔を見たら逃げます。