オシム監督の回答に場が凍り付く

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試合前日の公式記者会見は、ホーム扱いのUAEがで先に会見し、日本はその後だった。
まずUAEのメス監督が現れる。

この大会の公用語は英語だ。だからフランス人のメス監督にはフランス語からアラビア語の通訳と、アラビア語から英語への通訳の2人がついた。メス監督は英語の質問もしっかりわかっているみたいだったのだが。

メス監督が日本サッカーの変化をどう捉えているかという英語の質問が日本人記者から出た。ところがメス監督のコメントの英語訳が違っている。きっとアジアのサッカー情勢に詳しくなくて、思い込みで翻訳してしまったのだろう。ジーコ前監督がUAEにいたときに比べてどうか、というような、とんでもないストーリーになっていた。メス監督は首をかしげていると、いきなり英語で答え始めた。次の質問は英語。そのままメツ監督が英語で答える。英語とアラビア語の橋渡しをしていた通訳はその後黙ったままになってしまった。

メス監督が最後に受けた質問は、オシム監督と一緒にプレーしていたが今回対戦することについてどう思うか、ということだった。
「オシムはファンタスティックなプレーヤーだったし、監督としても人間としても尊敬している。でもフットボール・イズ・フットボール、ライフ・イズ・ライフ」
同じことを話しても、フランス訛りがあるとおしゃれっぽくなる。華やかな雰囲気をぷんぷん匂わせてメス監督は退席していった。

オシム監督が登場した。今度はセルビア語から日本語の日本人通訳、日本語から英語への通訳がついた。オシム監督の会見は相変わらず一筋縄ではいかない。

「UAE戦は日本にとって大事であるとともにあなたのキャリアにとっても大事ですか?」
これは英語での質問だった。この質問に対する想定解答は
「UAE戦は90年ワールドカップの●●戦と同じくらい重要だ」
あるいは
「もうすでに私の名声は確立しているから、この試合で私のキャリアが壊れることはない。だが緊張感を持って挑んでいる」
ということになるのだろう。

だがオシム監督には
「この試合に負けると辞めるのか」
というように聞こえたようだった。
「私は自分のキャリアについて気にしていません。どうしてあなたがそんなことに興味があるか分かりません。私が唯一日本に代表監督をつとめられる人物というわけではありません。私は日本に住んで日本の役に立とうとしているだけです」
一気に場が緊張する。

続いて
「日本サッカーは改善が必要とおっしゃっていたが、この気象条件の中ではどうするのですか」
という質問が日本語で飛んだ。
この質問に対するなら、
「これまで以上にコンパクトにして動く距離を短くする」
というような回答が一番無難だろうし、これはよくJリーグでも聞く答えだ。
ところがオシム監督はまたも想像を裏切る。
「これまで何があったか、今まで何をしてきたか、どうだったかという話はあまりするつもりはない。あなたがサッカーの専門家であれば約束などできないことが分かるでしょう」
まるで質問者を挑発しているかのような答えになってしまう。

もしかすると、この会見も日本語と英語訳が合っていないのかもしれない。

もう一つ、問題になったのはオシム監督は一文毎に訳させることだ。一言話しては訳させ、次の一文に移る。とても時間がかかるし、日本語が分からないメディアにとって、この方法はいつまでたってもどんな話をしているのか分からないことになる。

オシム監督がすべて話し終えた後、英訳している途中で通訳に
「監督は5分も話したのにたったそれだけだったのか」
という質問が飛んだ。この時点で日本以外のメディアはヒートアップしている。

さらにいくつかの質問を受けた後、英語への通訳がまた誤訳を口にした。すると見かねたという形で日本人通訳が英語で話し始めた。

こうやってドタバタしたことはよかったかもしれない。

この一件の後、オシム監督の言葉は次第にシニカルではなくなった。厳しい質問はあったが、さらりと受け流す余裕がでてきた。そして最後はオシム監督の
「経済や社会と同じようにもっとサッカーも成長する。自由なアイディアや即興性は伸びていくだろう。もう少し日本のサッカーに期待してもいいですよ」
という海外メディアへの回答で終わった。
場の緊張感はすっかり解けていた。

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